AIの文章はなぜ「それっぽいのに薄い」のか?

年間300本の原稿チェックで見えた型と直し方

生成AIに書かせた文章が、間違ってはいないのに薄い。弊社は広報支援の現場でAI原稿を年間300本以上チェックしていますが、修正指示の大半はこの「薄さ」に向かいます。原因はAIの文才ではなく、太字の乱用、思わせぶりな前置き、言い換えの繰り返しといった特定の型です。型には名前があり、名前を知れば自分の手で消せます。

この記事の要点

  • AIの文章が薄く感じられる原因は、内容の不足ではなく「演出」「前置き」「繰り返し」という情報ゼロの文が混ざることにある
  • 型には名前があり、検索と拾い読みだけで大半を発見できる
  • 修正の判断基準は一つ。その文が対象の情報を増やしているか、文章自身の話をしているだけか

参考にした文書

この記事は、k16shikano氏がGitHub Gistで公開している日本語技術文書の文章規範「japanese-tech-writing」を参考にしています(ライセンス:Unlicense、Star 1,600超)。

japanese-tech-writing(GitHub Gist)

この規範は人間向けの作文ルール集ではなく、LLM(Claudeなどの生成AI)に日本語を書かせたときの不自然さを抑えるために設計されたものです。各項目は「守れ」とだけ書かれており、なぜ必要かの説明は省かれています。その空白を、弊社が原稿チェックの現場で見てきた実例で埋めるのがこの記事です。記事中の悪い例と良い例は、元文書からの転記ではなく、すべて弊社の自作です。

AIの文章が太字と決め台詞だらけになる理由

太字と決め台詞は、要点を選ぶ仕事を読者に投げる装置です。強調が増えるほど、どこが本題なのか読者には分からなくなります。

弊社のチェックで最も多い修正が、この演出の削除です。まず悪い例から見てください。社内向けの報告文を想定した自作の例です。

悪い例

今回のキャンペーンは、過去最高の反応を記録しました。

数字がすべてを物語っています。

クリック率は前回比1.8倍。 これは偶然ではありません。

私たちのやり方は、間違っていなかったのです。

太字が三つあると、読者はどれが要点なのかを自分で判断することになります。「数字がすべてを物語っています」は、数字の説明を放棄したまま一行を消費する文です。最後の決め台詞は感情を運びますが、報告として持ち帰れる情報はありません。読み終えた上司の手元に残るのは「1.8倍」の一点だけで、それなら一文で済みます。

良い例

今回のキャンペーンのクリック率は前回比1.8倍でした。配信時間を平日夜に寄せた変更が効いたと考えています。曜日別の内訳で、夜間帯だけが伸びているためです。

強調は、読者に覚えてほしい一箇所に絞りました。決め台詞は、理由の説明に置き換えています。元の規範にも、短い決め台詞を独立した段落にして緊張を作る演出を多用しない、という項目があります。

AIが書く「ここで、大切なことをお伝えします」が不要な理由

この種の前置きは、本題を一行遅らせるだけで情報を運びません。消しても、本文の意味は一字も減りません。

弊社が年間300本のチェックで繰り返し削っているのが、この思わせぶりな言い回しです。「ここで、いちばん最初に、大切なことをお伝えします。」「ここで改めて一言だけ。」「これらはすべて『一例』です。」といった文が、AI原稿には高い頻度で現れます。製品説明を想定した自作の例で見てください。

悪い例

ここで、いちばん最初に、大切なことをお伝えします。

この機能は、単なる時短ツールではありません。

では、何なのか。

それは、働き方そのものを変える仕組みです。

四行のうち、情報を持っているのは最後の一行だけです。しかもその一行も抽象的で、機能が何をするのかはまだ分かりません。読者は「大切なこと」と予告された時点で期待を上げます。届いた中身が釣り合わなければ、下がるのは文章への信頼です。予告は期待の前借りであり、返せない借りは信頼で払うことになります。

良い例

この機能は、請求書の入力作業を自動化します。導入した部署では、担当者の作業時間が週あたり約3時間減りました。

主張をそのまま書き、根拠を一文添えるだけで足ります。元の規範では、主張を予告する前置きを置かず、主張をそのまま書くよう定められています。

AI原稿にありがちな言い換えの繰り返しをどう削るか

同じ主張は一度だけ書く、が原則です。二度目以降の言い換えは、新しい情報を足していない限り削除の候補になります。

文字数は増えているのに読者が受け取る量が変わらない、という症状の正体がこれです。ブログ記事を想定した自作の例で見てください。

悪い例

朝の時間を確保することが、一日の質を決めます。つまり、早起きこそが生産性の土台なのです。言い換えれば、朝をどう使うかで、その日のパフォーマンスが変わるということです。

三つの文は、すべて同じ内容です。読者は二文目で「さっき読んだ」と気づき、流し読みに切り替えます。問題はその後で、流し読みモードに入った読者は、続く本当に新しい情報まで流してしまいます。繰り返しの被害は、繰り返された箇所の外に及びます。

見分け方は簡単です。「つまり」「言い換えれば」「要するに」の直後の文を、その前の文と比べてください。新しい情報がなければ、どちらか片方を消します。残した一文の後ろには、言い換えの代わりに具体例を置きます。

良い例

朝の時間を確保することが、一日の質を決めます。私の場合、始業前の90分で企画書を一本書くようにしたところ、午後の会議で判断に迷う場面が減りました。

抽象的な主張の反復を、一段具体的な経験に差し替えました。読者が持ち帰れる量は、この形のほうが増えます。

AIが使いがちな空虚な形容詞(「多角的」「不可欠」)の直し方

この種の形容詞は、主張の強度だけを上げて中身を説明しません。消すか、「具体的には何なのか」を書いた文に置き換えます。

企画書を想定した自作の例です。

悪い例

本施策は、当社の成長にとって不可欠な、極めて重要な取り組みです。多角的な視点から包括的に検討を行いました。

この二文から読者が受け取れるのは、「筆者がこの施策を推している」という態度だけです。何と何を比較し、どの案を捨て、なぜこの案が残ったのか。判断に必要な情報は一つも書かれていません。稟議に回せば「具体的には?」と聞き返される文章であり、聞き返しの往復こそが読み手と書き手の双方の損失です。

良い例

本施策は、来期の新規顧客獲得の中心に置く取り組みです。広告出稿と紹介制度の2案と比較し、獲得単価の試算で本案が最も低くなったため選定しました。

「不可欠」を消し、代わりに比較の中身を書きました。形容詞で強度を盛る必要があるのは、たいてい中身が書かれていないときです。元の規範でも、「不可欠」「多角的」「包括的」といった語が、中身の説明を伴わない強調として名指しされています。

AIが書いた段落が頭に入らない理由(パラグラフライティング)

一つの段落に複数の話題が混ざっているからです。一段落一トピックに分け、最初の一文だけ読めばその段落の話題が分かる状態にします。

社内アナウンスを想定した自作の例です。

悪い例

新しい勤怠システムは10月に導入します。旧システムのデータ移行は情報システム部が行いますが、各自の打刻履歴は9月末までに各部署で確認してください。なお、経費精算のフローも変更を検討しており、こちらは決まり次第ご連絡します。導入後の操作研修は10月第2週を予定しています。

導入時期、移行作業、各自のタスク、別件の経費精算、研修。五つの話題が一つの段落に同居しています。この文章を受け取った読者が「自分は何をすればいいのか」を知るには、全文を二度読みして情報を仕分けし直す必要があります。仕分けは本来、書き手の仕事です。

確認の方法があります。各段落の一文目だけを縦に読んでください。一文目の並びだけで話の流れが通れば合格です。通らなければ、段落の切れ目か一文目のどちらかがずれています。

良い例

新しい勤怠システムは10月に導入します。各自の打刻履歴を9月末までに確認してください。データ移行と操作研修(10月第2週)は情報システム部からご案内します。

経費精算のフロー変更は、これとは別件で検討中です。決まり次第ご連絡します。

読者のタスクを含む本題と、未確定の別件を段落で分けました。一文目だけ読めば、それぞれの段落が何の話か分かります。

AIが推量を断定にすり替える箇所の見つけ方

根拠が本文の中にない断定を探します。「だろう」「かもしれない」を消して断定に直してよいのは、本文の根拠で裏が取れているときだけです。

分析レポートを想定した自作の例です。

悪い例

若年層の利用が減っているのは、料金プランが原因です。

書き手が確かめたのは「利用が減っている」ことまでで、原因は推測のまま、というケースがよくあります。AIはこのすり替えを特に起こしやすく、確度の情報を落として滑らかに断定します。

問題は、読者がこの一文を事実として引用することです。上司が役員会で「原因は料金と判明しています」と報告した後に推測だったと分かれば、損をするのは書き手だけでなく、引用した読者です。断定の形は、責任の所在ごと読者に渡ります。

良い例

若年層の利用が減っています。解約時アンケートでは「料金」を挙げる回答が最多でしたが、母数が42件と少ないため、原因の特定には追加の調査が必要です。

確かめた事実と、推測の境界を文面に残しました。元の規範でも、推量として書かれた文を機械的に断定へ変えないこと、断定に直すのは本文の根拠で命題が確定している場合に限ることが定められています。不確かさを残した文は弱い文ではなく、正確な文です。

AIが確認していないことを書いたとき、根拠をどう示すか

確かめた範囲と確かめていない範囲を、読者が区別できる書き方にします。滑らかさで埋めてはいけません。

元の規範に、次の一行があります。「確認していないことを、確認したかのように滑らかに書かない」。AIの文章では、調べた事実と生成された推測が同じ文体で並びます。文体で見分けられない以上、数字、固有名詞、日付が出てきたら、出どころを言えるかを一つずつ確認するしかありません。

悪い例

この手法は多くの企業で導入が進んでおり、生産性が平均30%向上したという調査もあります。

出典のない「調査もあります」は、読者が検証できない一文です。数字が具体的であるほど、検証できないことの害は大きくなります。書き分けの目安を表にします。

情報の状態書き方の例
一次情報で確認済み「公式ドキュメントに〜と記載されています」
二次情報のみ「〜と報じられています」
自社の観測「弊社がチェックした原稿では〜が最多でした」
推測「〜が要因ではないかと見ています」

この記事で使っている「年間300本以上」「修正で最も多いのは演出の削除」も、三行目の「自社の観測」に当たります。世の中のAI原稿全体の統計ではなく、弊社の現場で数えた範囲の数字です。観測範囲を明示しておけば、読者は情報の射程を自分で判断できます。

よくある質問

AIが書いた文章は、なぜ薄く感じるのですか?

情報が足りないからではなく、情報ゼロの文(前置き、言い換え、決め台詞)が混ざっているからです。全体の分量に対する中身の比率が下がると、読後に「薄い」という感触だけが残ります。

AIの文章を直すとき、まず何を見ればいいですか?

「つまり」「ここで」「重要」の三語で検索してください。弊社のチェックでは、修正箇所の多くがこの三語の周辺に集まっています。直後の文が新しい情報を足していなければ、削除の候補です。

この規範は、人間が自分で書くときにも使えますか?

使えます。作者のk16shikano氏は、人間が書くときの禁止事項集ではないと注記していますが、ここで挙げた症状は人間の文章にも現れます。特に言い換えの繰り返しと空虚な形容詞は、急いで書いた原稿によく出ます。

ClaudeのSkillとは何ですか?

生成AIのClaudeに、作業手順や規範をファイルとして読み込ませる仕組みです。今回参考にした文書は、この形式で書かれた日本語ライティング規範で、Claudeに読ませると出力の文章がこの規範に沿うようになります。

明日から試せること

  • 直近でAIに書かせた原稿を開き、「つまり」「ここで」「重要」を検索して、直後の文が新しい情報を足しているか確かめる
  • 各段落の一文目だけを縦に読み、話の流れが通るか確かめる
  • 断定で書かれた文の根拠が本文の中にあるか、一箇所ずつ当たる

この記事を書いた会社

Uniquerは、秋田県で広報支援とAI活用のバックオフィス支援を行っています。企業、医療機関、地域事業者の原稿制作と、生成AIが書いた原稿の品質チェックを年間300本以上手がけています。

参考文献

k16shikano「japanese-tech-writing」GitHub Gist(ライセンス:Unlicense)
https://gist.github.com/k16shikano/fd287c3133457c4fd8f5601d34aa817d

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