個人事業主のブランディングはなぜマウントに化けるのか?

飲み会で聞いた「プロならAdobe」問題

「私ってこんなにすごいんですよ!」というアピールと、ブランディング。どちらも「自分の良さを相手に伝える」ことを目的にした、同じ行為です。目的が同じはずなのに、片方は聞き手をうんざりさせ、もう片方は仕事の依頼につながります。フリーランスの映像制作者だった頃に飲み会で耳にした編集ソフトの会話を手がかりに、両者を分ける境界線を考えます。

この記事の要点

  • ブランディングと「イきりマウント取り」は、目的が同じで伝え方だけが違う
  • マウントに聞こえる原因は、根拠のない「プロならこうすべき」論と、他者を落として自分を上げる比較にある
  • 同じ実績でも、発注者の利益に翻訳し、比較相手を出さずに語れば信頼に変わる

ブランディングとは「自分の魅力を正しく効果的に伝える」こと

ブランディングをきれいな言葉で説明するなら、「自分の魅力を正しく効果的に伝える」ためのアピール活動です。ありていに言ってしまえば、「私ってこんなにすごいんですよ!」と伝えることでもあります。「自分の良さを相手に伝える」という目的で見るかぎり、二つは同じ行為です。

一方で、「私ってこんなにすごいんですよ!」という物言いに、うんざりした経験を持つ方は多いのではないでしょうか。同じ目的の行為なのに、聞き手に歓迎される伝え方と、煙たがられる伝え方があります。歓迎されるほうがブランディングと呼ばれ、煙たがられるほうを、私は行儀の悪い呼び方ながらイきりマウント取りと呼んでいます。両者の違いがはっきり表れた会話を、フリーランス時代の飲み会で耳にしました。

飲み会で耳にした、編集ソフトをめぐる会話

個人事業主(フリーランス)として映像撮影を請け負っていた頃、同業者が集まる飲み会によく参加していました。会にはクライアントも複数名いて、自分の仕事をPRする絶好の機会である反面、参加者は全員がカメラマンか編集者です。同業だらけの場で、自分だけの良さを伝えなければなりません。

会の途中、ある会話が耳に留まりました。AさんとBさんは、どちらも独立して編集を請け負うフリーランスです。

A「Bさんって、編集ソフトは何を使ってるの?」

B「私はWondershare Filmoraというソフトです。買い切りで、使いやすいので」

A「えぇ、Adobe使ってないの?もうプロなんだからさぁ、Adobe使わないと。俺なんてAdobeでもう10年以上やってるよ」

Aさんの発言を聞いて、私は心の中で(なんか嫌だな……)と思ってしまいました。

先に断っておくと、実在の誰かを貶める意図はありません。Aさんには悪役を引き受けてもらいましたが、同業者の集まりで似た物言いを耳にした経験は、フリーランスの読者なら珍しくないでしょう。(なんか嫌だな……)の正体を、Aさんの意図を推し量りながら分解してみます。

「なんか嫌だな」と感じた二つの理由

結論から言うと、引っかかった点は二つあります。「プロならAdobeを使うべきだ」という主張の中身への反論と、他者を落として自分を上げる伝え方への抵抗感です。

分解の出発点として、AさんがBさんに伝えたかったことを推測してみます。

  • ① 親切心で、Adobeの良さを伝えたかった
  • ② 「Adobeを10年以上使っている」という自分の強みを、同席したクライアントにアピールしたかった

細かい感情はほかにもあったかもしれませんが、話を見通しよくするため、二つに絞って考えます。

① 「プロならAdobe」という前提への反論

Adobeが優れた製品であることと、すべての案件にAdobeが必要であることは、別の話です。一つ目の引っかかりは、「プロならAdobeを使うべきだ」という前提に賛成できなかったことでした。

Adobe製品は、映画の制作現場でも使われる、文字どおりプロ品質の編集を市販のPC1台で実現できるソフトです。品質の高さに異論はありません。一方で、SNS向けのショート動画にカット、テロップ、BGMを付けるだけの案件なら、Adobeの機能はオーバースペック気味です(テロップの自動文字起こしなど、楽になる面はあります)。動画編集の受注が月に数十万円ほどの規模なら、毎月固定費が発生するサブスクリプション契約より、買い切りソフトを選ぶほうが経営として合理的な場合もあります。

つまりBさんの「買い切りで使いやすいからFilmora」という選択は、プロ意識の欠如ではなく、案件の内容と経営状況を踏まえた判断として筋が通っています。仮に①の親切心が本心だったとしても、受け手が前提に賛成していなければ、善意はお節介として届きます。「Adobeを使っていないとプロではない」という前提への反論が、(なんか嫌だな……)の一つ目の正体でした。

② 同じ実績でも伝え方で印象が逆になる理由

二つ目の引っかかりは、実績の中身ではなく、伝え方にありました。「Adobeを10年以上使っている」という実績自体は、依頼する側に安心感を与える材料です。本当に使いこなしているなら、発注したくなる理由になります。実績に問題がないと認めたうえでも、私は(なんか嫌だな……)と感じました。であれば、原因は伝え方に絞られます。

同じ「Adobe歴10年」を、たとえば次のように言い換えてみます。

言い換えた発言

「弊社はどんな小さな仕事も、Adobeを使用して作業を進めています。制作した映像を別の形で流用したい、細かな色彩を調整してクオリティを上げたい、といったご要望に対応しやすいからです」

元の発言

「えぇ、Adobe使ってないの?もうプロなんだからさぁ、Adobe使わないと。俺なんてAdobeでもう10年以上やってるよ」

比較の軸Aさんの発言言い換えた発言
視点自分(歴10年のすごさ)相手(依頼後の対応しやすさ)
根拠「プロなら当然」という規範だけ流用や色彩調整に対応しやすいという理由
他者の扱い落として比較する引き合いに出さない
聞き手に残るもの気まずさと警戒心安心感と、依頼する理由

Aさんの言い方は、Bさんを落とすことで自分を上げる構図になっています。言い換えた文は、誰も引き合いに出さず、理由を示して聞き手に安心感を渡しています。誰かを落として自分を上げる伝え方への抵抗感が、(なんか嫌だな……)の二つ目の正体でした。

「それってあなたの感想ですよね?」に答えるブランディングの基準

ここまで読んで、「Aさんの言い方も別に嫌いじゃないよ」「それってあなたの感想ですよね?」と感じた方もいるでしょう。感じ方の話にとどまるなら、たしかに感想の域を出ません。ただ、ブランディングの基本的な考え方に照らすと、二つの発言は好みの問題ではなく、成功例と失敗例に分かれます。分かれ目になる基準を三つ挙げます。

一つ目の基準は、ブランドが育つ場所です。ブランドは自分が名乗るものではなく、相手の頭の中に積み上がる認識を指します。だからブランディングの評価軸は、「自分が何を言ったか」ではなく「相手に何が残ったか」になります。Aさんの発言が場に残したものは、「Adobe歴10年」という情報より先に、気まずさでした。名乗った内容がどれだけ立派でも、残る印象がマイナスなら、ブランディングとしては失敗です。

二つ目の基準は、実績の翻訳です。マーケティングには「ドリルを買う人が欲しいのは、ドリルではなく穴だ」という古典的な言い回しがあります。道具や年数といったスペックは、発注者の利益に翻訳されて初めて、選ぶ理由として働きます。言い換えた文が「Adobe歴」を「流用や修正に対応しやすい」という発注者の利益に置き換えているのに対し、Aさんの発言はスペックを名乗った段階で止まっています。

三つ目の基準は、立ち位置の示し方です。自分の得意領域は、他者を落とさなくても示せます。むしろ比較で他者を落とす語りを聞いた相手は、「自分も別の場面で値踏みされるのだろう」と学習し、警戒を強めます。飲み会の場で言えば、Aさんは目の前のBさん(将来の協業相手や紹介元になり得る同業者)との関係を損ないかけただけでなく、同席していたクライアントにも警戒心を渡していたことになります。

三つの基準のどれで見ても、Aさんの発言は失敗例に、言い換えた文は成功例に該当します。「なんか嫌だな」という直感は、感想の形をした、ブランディング上の警報だったと言い換えられます。

個人事業主こそブランディングが必要になる理由

個人事業主にブランディングが必要な理由は、商品が自分自身と地続きだからです。会社の看板を持たない分、日々の会話がそのまま広告として働きます。

冒頭の飲み会を思い返すと、Aさんは営業資料を配ったわけでも、広告を出したわけでもありません。雑談の一言が、同席したクライアント全員に向けた「広告」として機能してしまいました。個人事業主への発注では、作品や価格だけでなく、「この人と仕事をして気持ちよく進むか」までが選ぶ材料になります。実績を積むことと同じくらい実績の伝え方を設計しておく価値があるのは、雑談さえ広告になってしまう働き方だからです。

設計といっても、大がかりな話ではありません。自分の強みを発注者の利益に翻訳した一文を、あらかじめ用意しておく。比較相手を出さずに、理由を添えて語る。Aさんの「Adobe歴10年」も、伝え方が設計されていれば、強力な営業資産になっていたはずです。同じ10年が、伝え方一つで警戒にも安心にも変わります。

よくある質問

実績を数字で言うと、マウントに聞こえませんか?

数字そのものは問題ありません。「歴10年」「累計500件」のような数字は、依頼する側が判断しやすくなる材料です。マウントに聞こえるかどうかは、数字の後ろに相手の利益への翻訳があるか、誰かとの比較で語っていないか、の二点で決まります。「歴10年なので、急な仕様変更にも過去の引き出しで対応できます」のように、数字と利益をセットにして伝えてみてください。

高い機材やソフトを使っていること自体は、アピールしていいの?

アピールして構いません。ただし「高いものを使っている」で止めず、投資が発注者に返る形を言葉にします。「Adobeを使っているので、納品後の色彩調整や別媒体への流用にも対応できます」のように、道具の名前と相手の利益をつなげると、自慢ではなく判断材料として届きます。

同業者ばかりの集まりでは、何をアピールすればいいですか?

同業者は競合であると同時に、手が回らない案件を回し合う紹介元にもなります。だから落とす相手ではなく、自分の得意領域を覚えてもらう相手です。「ショート動画の量産が得意です」「インタビュー撮影なら任せてください」のように守備範囲を具体的に伝えておくと、範囲の合う案件が回ってくる入口になります。

謙遜ばかりで仕事につながりません。ブランディングと謙遜は両立しますか?

両立します。謙遜することと、判断材料を出さないことは別物です。自分を大きく見せる必要はありませんが、事実と理由は淡々と伝えて構いません。「大手の実績はまだ少ないのですが、修正対応の速さでリピートをいただいています」のように、事実に理由を添える形なら、謙虚さを保ったまま判断材料を渡せます。

明日から試せること

  • 自己紹介文やプロフィールから、他者や他ツールとの比較で自分を上げている一文を探して削る
  • 実績を一つ選び、「なので、お客様は〜できます」と続く形に書き換えてみる
  • 使っている道具や手法を選んだ理由を、発注者向けの一文にして手元に置いておく

伝え方の設計を、一人で抱えたくない方へ

記事で書いた「実績を発注者の利益に翻訳する」作業は、頭ではわかっても、自分のこととなると手が止まりやすい部分です。Uniquerでは、個人事業主向けに「誰に・何を・なぜあなたが」を講義と実践ワークで言語化するブランディング支援を提供しています。

あわせて、言葉の受け皿になるHP制作代行、発信を問い合わせにつなげる案件獲得導線構築、作業時間を生み出すAI事務サポート「ササエル」も、1サービス50,000円(税込55,000円)から1つずつ依頼できます。追加費用は事前に明示し、無理な営業は行いません。自分の伝え方をどこから直せばよいか迷ったら、無料相談で一緒に眺めるところから始めてください。

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この記事を書いた会社

Uniquerは、秋田県で広報支援とAI活用のバックオフィス支援を行っています。企業、医療機関、地域事業者の原稿制作と、生成AIが書いた原稿の品質チェックを年間300本以上手がけています。

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